多くのプロップファームが依存する標準的なリスク管理ツールは、HFTやニューズギャップ取引などの「ルールベース」違反を検知することには長けています。
しかし、それらのルール適用が「公正」であったかを、監査で証明することはできません。本記事では、コモディティ化したリスク管理の限界と、AI MQLが提供する「説明可能な証跡」がなぜCCOの最後の砦となるのかを解説します。
1. 序論:コモディティ化した「ルール検知」とプロップファームの盲点
プロプライエタリ・トレーディング(プロップファーム)業界は、テクノロジーによって再定義されつつある。市場は成熟期に入り、トレーダーの獲得とリスク管理は、CRM(顧客関係管理)と一体化した洗練されたプラットフォーム上で実行されることが新たな標準となった 1。
1.1. プロップファーム・リスク管理の「標準装備」
Axcera 3 や Kenmore Design 1 に代表される現代のテクノロジー・ベンダーは、ファームの運営を合理化するための統合ソリューションを提供している。これらのプラットフォームの中核を成すのは、疑いなく「リスク管理」機能である。
Kenmoreは、「リアルタイムのリスク監視」を通じて、管理者がトレーダーの活動を監視し、違反を検知できると謳っている 1。Axceraも同様に、「リアルタイム・リスク・モニタリング」や「自動化されたルール施行」を強調し、日々の損失限度額や最大レバレッジといったルールを自動的に執行する 5。
これらの「標準装備」が検知対象とする違反リストは、業界の共通言語となっている。具体的には、「ニューズギャップ取引(News Gap trading)」「HFT(高頻度取引)」「搾取的戦略(exploitive strategies)」「アカウントヘッジ(account hedging)」「パスサービス(passing services)」「取引期間の乱用(trade duration abuse)」などである 1。
これらのシステムは、ルールに違反したトレーダーを特定し、ファームの管理者が「違反者を非アクティブ化する(deactivate violators)」 1 ことを可能にする点で、確かに機能的である。
1.2. 「検知」の先にある、CCOとCTOの根本的な問い
しかし、これらの標準ツールは、プロップファームの経営陣、特にCCO(最高コンプライアンス責任者)とCTO(最高技術責任者)が直面する、より深刻で根本的な問いに答えることができない。
これらのツールは、「誰がルールに違反したか」という「What(何)」を検知することには長けている。これは疑いのない事実である。
本稿が提起する問題は、これらのツールが「なぜそのルールが適用されたのか(あるいは、されなかったのか)」という「Why(なぜ)」を、規制当局や監査人に対して証明できないことにある。
CCOは、監査において次のような質問に耐えられるだろうか。
「貴社のシステムは、トレーダーXによるHFT違反を検知し、彼のアカウントを停止した。しかし、同じ期間、ほぼ同様の取引パターンを示したトレーダーYのアカウントは停止されていない。この判断の差異は、トレーダーYが貴社にとって高収益トレーダーであったという事実に影響されたのではないか?このルールの適用が『恣意的(Arbitrary)』ではなく、一貫した公正なポリシーに基づいていたことを証明せよ」
CTOは、このCCOの「証明」を技術的に支援するため、複数のシステム(CRM、取引プラットフォーム、リスクエンジン)に断片化したログを即座に突合し、監査可能な(auditable)データ基盤を提供できるだろうか。
1.3. 本稿の目的:コモディティ・リスクから「説明責任」という競争優位へ
競合ベンダーのマーケティング資料は、「違反トレーダーからの防御」という対トレーダーの機能(ファームの防御)を強調している 1。しかし、それは裏を返せば、ファーム自身が「どの違反者を、どの基準で遮断するか」という強力な「裁量」を行使していることの告白に他ならない。競合ツールは、「裁量」を行使するためのインターフェースは提供するが、その「裁量」が公正であったことを「対規制当局」に証明するための機能(ファームの弁護)は一切提供していないのである。
さらに、Axceraなどが謳う「AI駆動型不正検知」 5 は、この問題を悪化させる。CCOが「AIがフラグを立てたから処罰した」と回答した場合、規制当局は「そのAIはなぜフラグを立てたのか?そのアルゴリズムにバイアスはないか?」と問うだろう。説明不可能なAIの導入は、CCOにとっての「ブラックボックス」を増やすだけである。
本稿の目的は、この「検知(Detection)」と「証明(Proof)」の間に存在する致命的なギャップを明らかにすることである。我々は、AxceraやKenmoreに代表される「標準リスク管理」が、いかにしてCCOを「恣意性」という新たな規制リスクに晒しているかを論証する。そして、AI MQLが提供する「説明可能な証跡(Explainable Audit Trail)」が、単なる違反検知を超え、CCOの法的責任を保護し、CTOに真の技術的統制をもたらす唯一のソリューションである理由を解説する。
2. 「恣意性」という新たな規制リスク:SECとFINRAの視点
プロップファームのリスク管理担当者は、特定のトレーダーがルールに違反したか否かを判断することに日々追われている。しかし、規制当局の視点は、すでにその先へと移行している。問題は、個別の「ルール違反」そのものではなく、ファーム全体として「ルールの適用の仕方」が一貫しており、公正であり、恣意的でないか、という点にある。
2.1. SECの新たな焦点:「テーラリング」されていないポリシーの危険性
規制当局の監視は、単に「コンプライアンス・マニュアルが存在するか」という形式的なチェックから、「そのポリシーが、企業の固有のリスク実態に合わせて具体的に設計・運用されているか」という実質的な評価へと移行している 6。
米証券取引委員会(SEC)の最近の法執行アプローチは、このシフトを明確に示している。WilmerHale法律事務所の分析によれば、SECは投資顧問(Investment Adviser)に対する最近の執行措置において、彼らがMNPI(重要非公開情報)を違法に取引したという事実を告発したのではない 7。
そうではなく、彼らのコンプライアンス・ポリシーが、1940年投資顧問業法(Advisers Act)第204A条が要求する「事業の性質(nature of such investment adviser’s business)」を考慮した「十分に具体的(sufficiently specific)」なものではなかった、という理由だけで措置を講じているのである 7。
具体的には、ある顧問はCLO(ローン担保証券)の取引を事業の重要な要素としていたにもかかわらず、CLOの原資産であるローンに関するMNPIの取り扱いについて、ポリシーが具体的に対応していなかった 7。また、別の顧問は債権者委員会への参加という「中核戦略(core strategies)」 7 をとっていたが、その特殊な状況下でMNPIを不注意に受領するリスクに対処するポリシーが欠如していた 7。
このSECの法執行ロジックは、プロップファームのリスク管理に直結する。KenmoreやAxceraのような汎用的な(off-the-shelf)リスク管理ツールを導入し、その標準ルール(例:HFT検知)を適用するだけでは、SECが要求する「自社の事業の性質」—すなわち、多様な戦略を用いる数千のチャレンジャーとファンドマネージャーを評価・管理するという極めて特殊な業務—に「テーラリング」された監視義務を果たしたことにはならないのである。
2.2. 「チェリー・ピッキング」:恣意的適用の典型事例とCCOの責任
「恣意性」が法執行の直接的な対象となる最たる例が、SECによる「チェリー・ピッキング(cherry picking)」スキームの告発である 8。
これは、ファンドマネージャーが有利な取引(利益が出た取引)を自分自身や特定の優遇口座に割り当て、不利な取引(損失が出た取引)を他のクライアントの口座に割り当てるという、典型的な「恣意的なルールの適用(Allocation Practice)」である 8。
この事例で法的に最も重要な点は、SECがこのスキームにおいて、ファームのCCO(最高コンプライアンス責任者)個人を「様々なレッドフラグを無視した(ignored the various red flags)」として告発し、違反を「幇助した(aided and abetted)」 8 としていることである。
このロジックをプロップファームのオペレーションに当てはめた場合、その含意は明白である。「パフォーマンスの高いトレーダーA」によるHFT違反の「レッドフラグ」を(ファームの収益性のために)CCOが見逃し、一方で「パフォーマンスの低いトレーダーB」の同様の違反を即座に処罰(アカウント停止)した場合、これは「チェリー・ピッキング」と全く同じ構造の「恣意的なコンプライアンス適用」とみなされる法的リスクが厳然として存在する。
2.3. ルールベース・システムの構造的欠陥
この「恣意性」の問題は、個々のCCOの倫理観や裁量の問題であるだけでなく、AxceraやKenmoreが提供する「ルールベース」のリスク管理システムそのものが持つ、構造的欠陥に起因する。
刑事司法の分野におけるアルゴリズム・リスク評価(RAI)に関する学術的研究は、この問題を明確に示している 9。これらのリスク評価ツールは、客観的な判断を提供することを期待されて導入される。しかし、ハーバード大学の研究者であるBen Greenによれば、これらのツールは「客観性を提供するのに失敗」するだけでなく、むしろ「裁量の場(sites of discretion)を数多く生み出す」 9 と結論付けられている。アルゴリズム自体が、開発者のバイアスや不完全なデータに基づき、「不透明で、予測不可能(opaque, unpredictable)」 11 なブラックボックスとして機能し得るからである。
AxceraやKenmoreのシステムは、プロップファームにおける「リスク評価ツール(RAI)」そのものである。それらは客観的なルールを提供しているように見えて、実際には「どのルールを」「どの閾値で」「どのトレーダー群に」適用するかという、無数の「裁量の場」をCCOの前に生み出している。
金融業界規制機構(FINRA)自身も、企業が「不合理に設計された監視コントロール(例:閾値が高すぎる、または低すぎる)」 12 を設定していること自体を、規制上の懸念事項として指摘している。つまり、CCOは「ルールを設定した」という事実そのものによって、新たなリスクを背負っている。「なぜそのHFT検知の閾値を100ミリ秒に設定したのか? 50ミリ秒ではない理由は?」という規制当局の問いに客観的に答えられない限り、そのルール自体が「恣意性」の証拠となり得るのである。
3. CCOの最後の砦:「善管注意義務」の証明という難題
標準的なリスク管理ツールが「裁量の場」を生み出し、規制当局がその「恣意性」を厳しく追及するようになった結果、プロップファームのCCOは、かつてないほどの個人的な法的責任の矢面に立たされている。
3.1. CCO個人の法的責任(Personal Liability)の増大
法規制コンサルティングファームInnRegの分析によれば、CCOは、自社が関連法規の遵守に失敗した場合、個人的な法的責任(刑事、民事、風評リスク)に直面する 13。74%ものCCOが自らの個人的責任について懸念を表明しているという調査結果もある 13。
このリスクは、CCOが不正行為に「積極的に関与した」場合や「虚偽の陳述をした」場合に限定されない 13。InnRegが指摘するように、SECはCCOの責任の範囲について明確なガイダンスを欠いており 13、CCOは「あらゆるコンプライアンス違反」に対して個人的に責任を問われる可能性があるという、極めて不確実な環境に置かれている 13。
特に深刻なのは、コンプライアンス・プログラムの「ギャップ」が違反につながり、規制当局によって「有能な専門家であればそのギャップを特定し、ふさぐべきであった」 13 と事後的に判断された場合である。これは、「チェリー・ピッキング」の事例でCCOが「レッドフラグを無視した」 8 とされたロジックと同一である。
3.2. 唯一の防御策:「全体的不全」の否定
このような厳しい環境下で、CCOが自らを守るための数少ない防御策は、Proskauer法律事務所の専門家が指摘するように 14、発生した違反が、コンプライアンス・プログラムの「全体的な不全(wholesale failure)」—すなわち「プログラムが全く存在しないにも等しい、基本的かつ長期的な失敗」—の表れではなく、CCOが「誠実な努力(good-faith effort)」 14 を行っていたにもかかわらず発生した例外的(isolated)な事象であったことを証明することである。
「規制当局は(中略)善意の努力を高く評価する」 15 のであり、「全体的な不全」とみなされるリスクを回避するために、CCOは「コンプライアンスが単なる形式的なものではない」ことを示す「積極的で機能的なプログラムの記録」を維持しなくてはならない 14。
規制パラダイムはシフトしたのである。従来、「善管注意義務」の証明とは、「ポリシーを導入した」「ツールを購入した」「研修を実施した」といった活動の記録を意味していた。しかし、「テーラリング」 7 や「レッドフラグの無視」 8 が問われる現在、「善管注意義務」の証明とは、判断の記録、すなわち「なぜそのアラートを調査し、なぜこのアラートを見送ったのか」という理由の記録へと移行している。
3.3. 標準ツールでは「善管注意義務」を証明できない
ここで、セクション1で提示した問いに戻る。AxceraやKenmoreのシステムログは、この「善管注意義務」の証明、すなわち「恣意性の否定」に耐えうるか。
答えは明確に「否」である。
規制当局が、処罰されなかった高収益トレーダーYの取引記録を提示し、「これはアラートの閾値以下だったかもしれないが、SECが指摘する『レッドフラグ』 8 ではなかったのか?」と質問したとする。
CCOは、Kenmoreのダッシュボード 1 を見ながら、「システムがアラートを出さなかった」と回答するしかない。あるいは、「アラートは出たが、調査の結果、問題ないと判断した」と回答するかもしれない。
しかし、規制当局が次に「その『調査のプロセス』と、『問題ないと判断した理由』を、当時の記録で示せ」と要求した時、CCOは沈黙するしかない。なぜなら、競合の標準ツールには、その「調査のプロセス」や「判断の根拠(Why)」を、客観的かつ改ざん不可能な形で記録する機能が存在しないからである。CCOの証言は「性善説」に依存するしかなく、監査証跡としては全く機能しない。
信頼できる証跡の欠如は、CCOを監査で窮地に立たせる。さらに悪いことに、Proskauerの専門家が警告するように 14、CCOがその場で「後付けの(backdated)」文書を作成し、「欠陥を隠蔽するためにSECスタッフを欺く(Mislead the SEC staff to hide deficiencies)」という誘惑に駆られるリスクを生む。これは、元の違反よりも遥かに重大な、CCO個人のキャリアを終わらせる違反行為である。信頼できる証跡の欠如が、CCOを個人的な破滅へと誘導するのである。
4. CTOのジレンマ:技術的負債と監査証跡の断絶
CCOが直面するこの深刻な法務リスクは、コンプライアンス部門だけの問題ではない。その根源は、CTO(最高技術責任者)が管理する技術基盤の構造的欠陥、すなわち「技術的負債」と「監査証跡の断絶」によって引き起こされている。
4.1. CCOの要求 vs CTOの現実
CCOが規制当局から「恣意性」について問われた場合、CTOは「特定のルール(例:HFT)に抵触した全てのアラートと、それに対する全ての対応(処罰、見逃し、調査中)の完全な履歴」を、複数のシステムから横断的に、即座に提出することを求められる。
しかし、CTOが直面する現実は、レガシーシステム(Legacy Systems) 16 とデータのサイロ化である。多くの金融機関は、COBOLのような古い言語で書かれたメインフレームに未だ依存している 16。これらのシステムは相互運用性に欠け、バッチ処理で動作するため、CCOが要求するリアルタイムの横断的な監査には全く適していない 16。
Kenmoreのソリューション 1 自体が、「CRM」「ダッシュボード」「チャレンジ追跡」「ペイアウトワークフロー」といった複数のコンポーネントで構成されており、データが本質的に断片化していることを示唆している。
CTOが直面するこの「技術的負債(Technical Debt)」は、単なる運用上の非効率(例:開発速度の低下 18)を引き起こすだけではない。それは、監査可能性(Auditability)の欠如という形で、CCOの「善管注意義務違反」 14 を技術的に幇助(aiding and abetting) 8 する「規制コスト」を生み出しているのである。
4.2. 従来の監査証跡(Audit Trail)の致命的欠陥
従来の監査証跡(Audit Trail)は、CCOが求める「証明」の要求に応えられないように設計されている。この問題は、業界固有のものではなく、グローバルな規制当局が共通して認識している課題である。
IOSCO(証券監督者国際機構)は、技術革新がもたらす市場監視の課題に関する詳細なレポート 19 の中で、既存の監査証跡データの限界を厳しく指摘している。
- 問題点1:データの断片化(Fragmentation): 取引情報が複数の取引所やシステムに分散しており 19、「市場横断的な監視(Cross-Market Surveillance)」が極めて困難である 19。
- 問題点2:データの非互換性(Lack of Compatibility): 収集される情報(例:顧客ID、注文、取引)に「重大な格差」があり、フォーマットが異なるため、規制当局がデータを突合できない 19。
- 問題点3:コンテキスト(Why)の欠如: 従来のログ(FINRAのCAT(統合監査証跡)でさえ 21)は、「取引(Transaction)」データ(=What)は収集するが、その背後にある「投資家のアイデンティティ」や「判断の理由」を即座に紐付けることが困難であった 19。
CCOが「恣意性がない」ことを証明するには、これらの断片化したログを「手作業で(manually)」 5 繋ぎ合わせる必要があるが、それは監査のスピードと要求に応えられず、多大な時間とコストを要する 22。
CTOにとっての最大の皮肉は、AxceraやKenmoreのような「モダンな」ソリューション 1 を導入することが、真の解決にならないことである。これらのツールは、それ自体が閉じた「サイロ」である。それらは「取引プラットフォーム(MT4/MT5/cTrader)」 23 や他の基幹システムと連携する必要があるが、IOSCOが指摘するような 19 、真に「統一された」監査証跡を提供するようには設計されていない。それらは「検知」のためのダッシュボードであり、「証明」のための台帳ではない。
今、これらのツールを導入することは、CTOにとって「現在の問題を解決するために、未来の技術的負債を購入する」ことに他ならないのである。
5. AI MQLの「説明可能な証跡」:検知から証明へ
規制当局が「恣意性」を問い 7、CCOが「善管注意義務」の証明 14 に苦しみ、CTOが「データのサイロ化」 19 に直面するという、この三重の課題を解決するアプローチが存在する。
標準的なツールが「What(何)」の検知にとどまるのに対し、AI MQLのソリューションは「Why(なぜ)」の証明を可能にする。これは2つの核心技術の融合によって実現される。
5.1. AI MQLが提供する2つの核心技術
技術1:説明可能なAI(XAI = Explainable AI)
AI MQLのリスクエンジンは、単なるルールベースのフラグ立てや、競合が提供するブラックボックスAI 5 とは根本的に異なる。我々のシステムは「説明可能なAI(XAI)」に基づいている。
XAIとは、AIシステムの出力(決定)を「人間が理解し、解釈し、説明できる」ようにする実践である 24。規制当局や監査人が 26 が「なぜこの取引が疑わしいとフラグ付けされたのか?」「どの要因がこの顧客をハイリスクと分類したのか?」 25 と質問した際、XAIは明確な「理由」と「根拠」を提示する。
これにより、CCOは自らの判断(あるいはシステムの判断)の「客観性」と「合理性」を証明でき、規制当局の信頼を確保し 25、バイアスのリスクを低減する 25 ことが可能となる。
技術2:イミュータブル(不変)な監査証跡
XAIが生成した「理由(Why)」と、それに基づいてCCO(またはリスク担当者)が下した「決定(Decision)」、そして元となった「取引(What)」は、RegTechの最新の進展である「不変の監査証跡(Immutable Audit Trail)」 30 に記録される。
ブロックチェーン技術などに代表されるこのアプローチ 31 は、全ての記録が「改ざん不可能(tamper-proof)」であり 31、「データの完全性(data integrity)」 31 を保証する。
KPMGのレポートが示すように、この技術は「簡素化されたレポーティングと、自動化された不変の監査証跡による規制コンプライアンスの強化」を実現する 30。
5.2. 「説明可能な証跡(Explainable Audit Trail)」の価値
AI MQLは、これら2つの技術—「理由」を生成するXAIと、「データ」を保護するImmutable Ledger—を組み合わせ、「説明可能な証跡(Explainable Audit Trail)」と呼ぶ。XAIが生成した「理由」を、Immutable Ledgerが法的な「証拠」として固める。この連鎖こそが、競合がコピーできないAI MQLの「深い堀(Deep Moat)」である。
これは、CCOとCTOの双方に、標準ツールでは決して得られない決定的な価値を提供する。以下の比較表は、そのパラダイムシフトを明確に示している。
表1:リスク管理ソリューションのパラダイムシフト比較
| 評価基準 | 標準的リスク管理(Axcera, Kenmore等) | AI MQL:説明可能な証跡(Explainable Audit Trail) |
| 主要機能 | ルールの検知(HFT、ニュースギャップ等) | 決定の証明(検知と執行の理由) |
| 監査証跡 | 断片的なログ(「What」の記録) | 統一された不変の記録(「Why」の記録) |
| 規制当局への対応 | コンプライアンスの「存在証明」 | コンプライアンス適用の「公正性の証明」 |
| CCOの法的リスク | 高い(「恣意性」の疑いを晴らせない) | 低い(「善管注意義務」を客観的に立証可能) |
| CTOの技術的課題 | 技術的負債の温存(データのサイロ化) | 技術的負債の解消(監査可能な単一の真実) |
CCOにとっての価値:
規制当局の監査に対し、「恣意性」の疑いを完全に払拭できる。すべての決定(処罰、見逃しを含む)が、「いつ、誰が、何を、なぜ」決定したのかを、改ざん不可能な証拠として提示できる 34。これは、CCO個人の法的責任を保護する「最後の砦」となる。
CTOにとっての価値:
サイロ化したレガシーシステム 16 や、IOSCOが指摘する断片化し非互換な監査ログ 19 の悪夢から解放される。AI MQLは、コンプライアンスに関する「唯一の信頼できる情報源(Single Source of Truth)」 36 を提供し、監査可能性とデータガバナンスを飛躍的に向上させる。
競合のツールがリスク管理を「違反者を見つける」というコストセンターとして扱うのに対し、AI MQLのソリューションは、リスク管理を「自社の公正性を証明する」というガバナンス機能 37 へと昇華させ、投資家や規制当局に対する「透明性」 38 という競争優位の源泉へと変えるのである。
6. 結論:「コモディティ・リスク」を回避し、「説明責任」を実装せよ
本稿は、現代のプロップファームが直面するリスク管理のパラダイムシフトを論証した。
6.1. リスク管理のパラダイムシフト
プロップファーム市場において、HFTやニュースギャップを「検知」する機能は、もはや差別化要因ではなく、生存のための最低条件、すなわち「コモディティ(汎用品)」に過ぎない。
真のリスクは、トレーダーの違反行為そのものではなく、その違反行為に対するファームの対応が「恣意的」であると規制当局にみなされることである。AxceraやKenmoreに代表される標準的なツールは、ルール違反の「検知」はできても、その適用の「公正性」を証明するようには設計されていない。これらのツールに依存することは、「コモディティ・リスク」—すなわち、競合他社と同じツールを使い、同じ監査上の弱点を抱え、同じ法的責任に直面するというリスク—を受け入れることに他ならない。
6.2. CCOとCTOへの最終提言
CCOへ:
あなたの「善管注意義務」 14 は、リスク管理ツールを導入したという契約書では証明できない。SECが「レッドフラグの無視」 8 や「不十分なポリシーのテーラリング」 7 を追及する時代において、あなたの「誠実な努力」 15 は、下した全ての判断の「理由(Why)」を客観的な証拠として提示できるかにかかっている。
CTOへ:
「検知」のためだけに設計されたサイロ化されたツール 1 は、CCOが求める「証明」の要求に応えられず、監査のたびに手作業でのデータ突合を発生させ、技術的負債 17 を増大させる。今、求められているのは、IOSCOが示す課題 19 を解決し、監査可能性(Auditability)とデータの完全性(Integrity)を担保する、次世代の「証跡」基盤である 36。
6.3. AI MQLの「堀」
AxceraやKenmoreが提供するものがコモディティ化した「検知(Detection)」であるならば、AI MQLが提供するのは、唯一無二の「証明(Proof)」である。
我々の「説明可能な証跡(Explainable Audit Trail)」は、XAI(説明可能なAI) 25 と Immutable Ledger(不変の台帳) 30 を融合させ、規制当局の「恣意性」への疑念に対する唯一の回答を提供する。これは、プロップファームのコンプライアンスにおける「深い堀」であり、CCOの法的責任を守る最後の砦となる。
引用
- Prop Firm Solutions | CRM & Dashboard for Proprietary Trading Firms – Kenmore Design, 2025年11月参照 https://www.kenmoredesign.com/prop-firm-solutions/
- Match-Trader Prop Trading Software: Proprietary Trading Solutions, 2025年11月参照 https://match-trade.com/products/proptrading/
- Prop Firm Software & Technology | White Label Prop Firm Tech, 2025年11月参照 https://axcera.io/
- Risk Management for Prop Firms | Advanced Real-Time Monitoring …, 2025年11月参照 https://www.kenmoredesign.com/prop-firm-solutions/risk-management/
- Risk Management and Fraud Detection in Prop Trading – Axcera, 2025年11月参照 https://axcera.io/risk-management-and-fraud-detection-prop-firm/
- Heightened Risk Standards: Focus on Trade Surveillance, 2025年11月参照 https://kpmg.com/us/en/articles/2024/heightened-risk-standards-focus-on-trade-surveillance-reg-alert.html
- SEC Enforcement Actions Reflect Expanding Focus on Advisers …, 2025年11月参照 https://www.wilmerhale.com/en/insights/client-alerts/20241203-sec-enforcement-actions-reflect-expanding-focus-on-advisers-policies-and-procedures-to-prevent-misuse-of-material-nonpublic-information
- Regulatory Update and Recent SEC Enforcement Actions | Blank …, 2025年11月参照 https://www.blankrome.com/publications/regulatory-update-and-recent-sec-enforcement-actions-6
- The False Promise of Risk Assessments: Epistemic Reform and the Limits of Fairness – Scholars at Harvard, 2025年11月参照 https://scholar.harvard.edu/files/bgreen/files/20-fat-risk.pdf
- Understanding risk assessment instruments in criminal justice – Brookings Institution, 2025年11月参照 https://www.brookings.edu/articles/understanding-risk-assessment-instruments-in-criminal-justice/
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