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My Forex Fundsの余波…スキャンダル後の世界でプロップファームを吟味するためのトレーダーズガイド

概要

CFTCによるMy Forex Funds訴訟は、プロップ業界の暗部を露呈させた。この調査レポートは、事件を詳細に分析し、トレーダーのための実践的なデューデリジェンス・チェックリストを提供する。危険な兆候を見抜き、ファームのビジネスモデルを理解し、信頼できる資本パートナーを選ぶ方法を学ぶ。

I. 序章:パンドラの箱を開けたMy Forex Funds事件

A. 業界を震撼させた3.1億ドルの詐欺告発

2023年8月、プロップトレーディング(自己勘定取引)業界は、その基盤を揺るがす衝撃的なニュースによって震撼させられた。米国商品先物取引委員会(CFTC)が、業界最大手の一角であったMy Forex Funds(MFF)とその運営者Murtuza Kazmiに対し、大規模な詐get的スキームを実行した疑いで提訴したのである 1

CFTCの告発は、単なる規制違反の指摘に留まらず、MFFのビジネスモデルそのものがトレーダーを欺くために設計された壮大な詐欺であったと断じるものであった。訴状によれば、MFFは2021年11月以降、実に135,000人以上の顧客から少なくとも3億1000万ドル(当時のレートで400億円以上)の手数料を不正に徴収したとされる 1。CFTCの執行ディレクターであるIan McGinley氏は、この提訴を「我々の市場におけるリテール詐欺を根絶するという我々のコミットメントの象徴である」と強く位置づけ、MFFの行為が法を明確に違反していると非難した 2

この告発を受け、米国およびカナダの規制当局は迅速に行動し、MFFの資産を凍結、その事業活動は事実上停止に追い込まれた 2。世界中のトレーダーがアクセスしていたウェブサイトは閉鎖され、規制当局からの通知文が掲示される事態となった 2

B. 逆説的な結末:規制当局の「不正行為」による訴訟棄却

この衝撃的な告発から約2年後の2025年5月、事件はさらに前代未聞の展開を迎える。米連邦裁判所は、CFTCによるMFFに対する詐欺訴訟を「棄却」する判断を下したのである 1

しかし、この棄却はMFFの潔白が法廷で証明されたことを意味するものではなかった。棄却の理由は、被告(MFF)の無実ではなく、原告(CFTC)自身の「重大な虚偽表示(significant misrepresentations)」と「不正行為(misconduct)」であった 3

特別管財人(Special Master)の調査報告によれば、CFTCは訴訟の初期段階でMFFの資産凍結という一方的な(ex parte)差止命令を得るため、裁判所に対して意図的あるいは重過失によって誤解を招く情報を提示していた 3。具体的には、CFTCはMFF運営者による450万カナダドルの資金送金が「不審な資産隠蔽」であるかのように主張していたが、実際にはそれがカナダ歳入庁(CRA)への正当な法人税の支払いであることを示す明確な証拠(オンタリオ証券委員会からのEメール等)を、訴訟提起前から入手していたにもかかわらず、その事実を裁判所に速やかに開示することを怠ったのである 3

この規制当局による「誠実義務の不履行」は極めて深刻であると判断され、裁判所はCFTCに対する制裁として、訴状の棄却およびMFF側の弁護士費用の支払いという、異例の措置を勧告するに至った 3。金融規制当局が司法制裁を受けるというこの結末は、関係者にとって「評判を失墜させる(reputationally devastating)」ほどの衝撃であり、CFTCの代理議長自らが「透明性と説明責任を通じて信頼を再構築しなければならない」と声明を出す事態にまで発展した 4

C. 本レポートの論点:なぜ「棄却された事件」を分析するのか

MFFが法廷闘争において(規制当局の自滅という形で)勝利したという事実は、彼らのビジネスモデルが倫理的であったことを何ら証明するものではない。むしろ、本件においてトレーダーと業界関係者が真に学ぶべきは、訴訟の「結末」ではなく、スキャンダルの「中身」そのものである。

法的手続き上の不正によって訴訟は棄却されたが、CFTCが2023年8月に提出した当初の告発状は、プロップ業界のどのようなビジネス慣行が規制当局によって「詐欺的」と見なされるかを示す、一般に公開された「ロードマップ(roadmap)」として依然として機能し続けている 1

MFFはCFTCの不正行為という手続き上の欠陥によって追及を免れたが、告発状に詳述された内容は、業界の「暗部」を白日の下に晒す、これ以上ないケーススタディである。本調査レポートは、この「ロードマップ」を徹底的に解剖し、MFF事件が暴露したプロップ業界の構造的欠陥を分析する。そして、トレーダーが自らを守り、信頼に足る資本パートナーを選定するための、実践的なデューデリジェンス(適正評価)のフレームワークを提示するものである。

II. 告発内容の解剖:CFTCが描いた「詐欺の設計図」

CFTCが提出した訴状 2 は、MFFが単なるアグレッシブなマーケティングを行う企業ではなく、トレーダーを意図的に失敗させるために精巧に設計された「詐欺の設計図」に基づいていたと主張している。

A. 「パートナー」ではなく「カウンターパーティ」という現実

プロップファームの多くは、トレーダーに対し「我々はパートナーである」という建前を提示する。MFFも例外ではなく、「あなたの成功が私たちのビジネスである」「あなたが利益を出すときにのみ私たちも利益を得る」といった言葉で、トレーダーとの運命共同体であることを強調していた 2。これは、トレーダーが利益を上げれば、ファームもその利益の一部(プロフィットシェア)を得るという、Win-Winの関係性を想起させるものである。

しかし、CFTCの告発によれば、これは完全な虚偽であった。訴状は、MFFが顧客の注文を第三者の流動性プロバイダー(LP)に一切流しておらず、実質的に「すべての顧客取引のカウンターパーティ(取引相手)」として機能していたと指摘している 2

これは、ファームとトレーダーの関係性が「パートナー」ではなく「敵対者」であることを意味する。MFFのビジネスモデルは、トレーダーの「損失」が、そのままMFFの「利益」となる、典型的なB-Book(あるいはカウンターパーティ)モデルであった。この根本的な利益相反構造が、次に述べる積極的な詐欺行為の温床となったのである。

B. 意図的に「失敗させる」ための手口

もしファームの利益がトレーダーの損失によって成り立つのであれば、ファームにとっての合理的行動は「トレーダーの成功を支援すること」ではなく、「トレーダーの失敗を誘発すること」である。CFTCの告発は、MFFがまさにその合理的行動を、テクノロジーを駆使して秘密裏に実行していたと主張している 2

  1. 秘密のソフトウェアによる執行妨害
    訴状によれば、MFFは、ごく少数ながら利益を上げ始めた(ファームにとっては損失を発生させる)トレーダーに対し、ハンディキャップを負わせるための秘密の専門ソフトウェアを使用していた 2。このソフトウェアは、特定のトレーダーの注文に対し、意図的に約定遅延(レイテンシー)を発生させたり、表示された価格よりも不利な価格で約定させる(スリッページ)操作を行っていたとされる 2。トレーダー側からは、これが市場の自然な変動によるものか、ファームによる意図的な操作かを区別することは極めて困難である。
  2. 欺瞞的な手数料の賦課
    MFFは、トレーダーに対し、第三者のLP手数料であるかのように装った「コミッション(手数料)」を請求していた 3。しかしCFTCは、MFFがLPに注文を流していなかった以上、これは実際の第三者手数料ではなく、MFFが顧客の資産を人為的に減少させるために直接課した「非開示の料金」であったと断じている 2。これらの隠された手数料は、顧客のエクイティを直接的に減少させ、失格条件である「最大ドローダウン」の閾値に早期に到達させる効果を持っていた。
  3. 口実による顧客口座の解約
    上記のような妨害工作を経てもなお利益を上げ続ける、極めて稀なトレーダーに対しては、MFFは恣意的な「口実」を用いて口座を解約し、利益の出金を拒否していたとされる 2。

C. 「評価(Evaluation)」モデルという名の罠

MFFのビジネスモデル 5 の中核は、多くのプロップファームと同様、「評価(Evaluation)」または「チャレンジ」と呼ばれるプロセスにあった。トレーダーは、まず「ファンドされたトレーダー(funded trader)」になる資格を得るために、MFFに対して手数料(チャレンジ料)を支払う。その後、デモ口座 5 で厳しい取引ルール(例:利益目標10%、最大ドローダウン8%)を守りながら、所定の利益を上げることを要求される。

CFTCの告発が正しければ、このモデル全体が精巧な罠であったことになる。MFFが3.1億ドルもの収益を上げていた 2 事実と、彼らが成功したトレーダーを積極的に妨害していた 2 という告発内容を突き合わせると、論理的な結論は一つしか導き出されない。

MFFのビジネスモデルの本質は、「才能あるトレーダーを発掘し、その利益を分配すること」ではなかった。その本質は、「大多数のトレーダーが評価フェーズで(意図的に)失敗すること」を前提とした、チャレンジ料の徴収そのものであった。

このモデルにおいて、トレーダーはパートナーではなく、カジノの客に等しい。ファームはトレーダーが「合格」することを望んでおらず、むしろ「不合格」になるように、前述の執行妨害や欺瞞的な手数料といった手段を講じていたのである。MFFの運営者であるKazmi氏が、このスキームから得た収益で高級住宅や自動車を購入し、数千万ドルを個人口座に移していた 2 という告発は、このビジネスモデルが誰のために機能していたかを如実に物語っている。

III. 業界の構造的欠陥:「デモ口座モデル」の黄昏

MFF事件を、単一の悪質な企業による特異な詐欺事例として片付けるのは早計である。MFFが採用していたビジネスモデルの根幹、すなわち「デモ口座による有料チャレンジ」は、業界のスタンダードであり、MFFが露呈させた問題は、氷山の一角である可能性が高い。

A. MFFは氷山の一角か? 90%が失敗する現実

MFFがトレーダーを「意図的に」失敗させていた点は悪質性の極みであるが、トレーダーが「結果的に」失敗しているという現実は、業界全体に共通している。ある分析によれば、プロップファームのチャレンジに挑戦するトレーダーの実に90%以上が失敗に終わっている 6

この驚異的に高い失敗率は、単にトレーダーのスキル不足だけでは説明がつかない。「チャレンジ料」を収益源とするビジネスモデル(MFF型)においては、ファーム側に「トレーダーを成功させるインセンティブ」が働かないどころか、むしろ「失敗させるインセンティブ」が働くという構造的欠陥が存在する。

B. 「シミュレーション」と「現実」の乖離

問題の核心は、多くのファームが評価と(多くの場合)ファンド後の取引に用いる「デモ口座」そのものにある 7

従来のデモ口座における取引執行は、現実の市場を正確にミラーリングしていない。最大の欠点は、現実の市場に存在する「市場深度(Market Depth)」や「流動性(Liquidity)」の概念が欠如している点である 7

例えば、1:100のレバレッジが効いたデモ口座で、トレーダーが数百万ドル規模のポジションを建てたとする 7。デモ環境では、その注文は遅延なく、表示された価格で即座に約定する。しかし、現実のライブ市場において同規模の注文を実行すれば、流動性の薄い時間帯であれば市場にインパクトを与え、大幅なスリッページが発生するか、そもそも約定自体が困難である可能性が高い。

この「シミュレーション」と「現実」の乖離は、トレーダーに対して二重の欺瞞をもたらす。

第一に、MFFのような悪意あるファームは、このデモ環境を外部から検証不可能な「ブラックボックス」として利用し、執行遅延やスリッページを意図的に「操作」することが可能になる 2

第二に、仮に善意のファームであったとしても、この「不正確な」デモ環境で達成された取引結果は、現実の市場におけるトレーダーの実力を正しく反映していない。つまりトレーダーは、現実の市場では通用しない可能性のあるスキルを証明するために、高額なチャレンジ料を支払わされていることになる 7

C. 「デモ口座モデルは崩壊する」:業界の未来

この構造的欠陥に対し、業界内部からも警鐘が鳴らされている。大手FXブローカーであるAxiの幹部、Greg Rubin氏は、MFF事件と、それに続くMetaQuotes社(MT4/5プラットフォームの提供元)によるプロップファームへの締め付けを受け、「これはプロップトレーディング企業におけるデモ口座モデルの衰退の始まりを示す可能性がある」と公に述べている 9

背景には、デモ環境に依存した不透明な報酬プロセスへの疑念 9 だけでなく、業界の技術的な脆弱性がある。多くのプロップファームは、その事業基盤をMetaQuotes社が提供するMT4/5プラットフォームに全面的に依存している。しかし、MetaQuotes社が(おそらくは規制当局からの圧力を受け)プロップファーム、特に米国を拠点とするファームとの契約を一方的に解除し始めたことで、多くのファームが事業停止の危機に瀕した 9

この混乱を受け、Axiのような規制下のブローカーは、デモ口座ではなく、最初から「ライブ取引アカウント」に基づく資本配分プログラムを代替案として提唱している 9。これは、ファームとトレーダーが同じライブ市場のリアリティを共有し、利益相反の少ない、より持続可能なモデルへの移行を示唆するものである。

D. 規制と透明性への不可逆な流れ

MFF事件は、業界全体の評判に回復困難なほどの傷をつけた 10。この事件は、規制当局がプロップ業界に本格的な監視の目を向ける引き金となった。今後、業界に対する規制の導入や、既存の法規制(例:未登録ブローカーとしての取締り)の適用強化は避けられない流れである 10

この新しい時代において、プロップファームが生き残る道は一つしかない。それは、「透明性」の徹底的な開示である。業界の専門家が指摘するように、今後のファームは、トレーダーがデモ口座で取引しているという事実、そしてファーム自身が(B-Bookとして)カウンターパーティである可能性について、利用規約やマーケティング資料で明確に開示することが、最低限の義務として求められるようになる 11。MFFのような「ブラックボックス」オペレーションは、もはや許容されないのである。

IV. 実践的デューデリジェンス:信頼できる資本パートナーを選定するための20項目

MFF事件が白日の下に晒した事実は、トレーダーがもはやファームの華やかなマーケティング文句を鵜呑みにできないということである。トレーダーは、自らの資金(チャレンジ料)と時間を投じるに値するパートナーを、厳格な「監査人」の視点で見極めなければならない。

以下に、MFF事件の教訓に基づき、プロップファームを吟味するための包括的なデューデリジェンス・チェックリストを20項目にわたり提示する。

A. ビジネスモデルと利益相反の検証(5項目)

  1. 収益源の特定: ファームの主な収益源は何か? 12 成功したトレーダーからの利益分配(プロフィットシェア)を重視しているか、それともチャレンジ料(不合格者の手数料)に過度に依存したビジネスモデルになっていないか 12。後者である場合、MFFと同様に、ファームにはトレーダーを失敗させるインセンティブが働く。
  2. 取引環境の開示: ファームは、評価およびファンド後の取引が「デモ口座」または「シミュレーション」環境で行われることを明確に開示しているか? 11 それともAxi Selectのように、規制下のブローカーによる「ライブ口座」モデルを提供しているか? 9 デモ口座である事実を隠蔽、あるいはライブ口座であると誤認させるファームは、MFFの欺瞞 2 と同質である。
  3. 利益相反の開示: ファームが顧客のカウンターパーティ(B-Book)となる可能性について、利用規約で明確に開示しているか? 11 MFFの最大の欺瞞は、この根本的な利益相反を隠蔽していた点にある 2。透明性のあるファームは、この可能性を認め、それをどのように管理するかを説明すべきである。
  4. 提携ブローカーの精査: ファームはどのブローカーのプラットフォームを使用しているか? 13 そのブローカーは、信頼できる国の金融当局(例:英国FCA、オーストラリアASICなど)の厳格な規制下にあるか? プロップファーム自体が規制対象外(unregulated)であることは多い 14 が、その取引インフラを提供するブローカーが信頼できる規制下にあることは、取引の公正性を担保する上で極めて重要な要素である。
  5. スケーリングプランの現実性: 利益を上げたトレーダーの資金を増額する(スケールアップ)プロセスは明確か? 12 達成すべき利益目標や条件が具体的かつ自動的に適用されるか、それともファーム側の「裁量」による曖昧なものか。後者は、MFFが利益を上げたトレーダーを排除した口実 2 と同様の恣意的な運用を許す危険性がある。

B. 法的・組織的健全性の精査(4項目)

  1. 運営実体と所在地: ファームを運営している法人はどこに登記されているか? 16 その法的な住所は明確か? タックスヘイブンや規制が極端に緩いオフショア地域(例:セントビンセント・グレナディーンなど)のみに登記上の拠点を置き、物理的なオフィスや経営実態が不明瞭なファームには最大限の注意が必要である。
  2. 経営陣の透明性: 創業者、CEO、経営幹部の氏名、経歴、顔写真は公開されているか? 17 経営陣が匿名であったり、その素性が隠されているファームは、問題発生時に責任を追及することが困難であり、典型的な危険信号である。
  3. 利用規約(T&Cs)の精読: 最も重要かつ退屈な作業であるが、これを怠ってはならない。特に「利益の没収」「口座の閉鎖」「返金ポリシー」に関する条項を徹底的に精読する 13。”at our sole discretion”(当社の独自の裁量により)といった、ファーム側に一方的かつ広範な裁量権を与える条項が多用されていないか。曖昧な規約は、恣意的な口座解約の温床となる。
  4. 規制状況の確認: 前述の通り、多くのプロップファームは規制のグレーエリアにある 15。しかし、CFTCがMFFを(詐欺に加えて)「未登録の外国為替ディーラー(unregistered foreign exchange dealer)」として告発した 3 ように、その事業活動が既存の金融規制に抵触するリスクを孕んでいる。ファームが自社の法的立ち位置についてどのように説明しているかを注視する。

C. 取引ルールとテクノロジーの妥当性(6項目)

  1. 「トレーディング・スタイル」との適合性: ファームが課すルールが、自身の確立された取引スタイルと合致しているか 19。例えば、スキャルピングや高頻度取引(HFT)の禁止、特定の最低取引時間の設定、ニュースイベント中の取引禁止、週末や夜間のポジション保有(スイングトレード)の禁止 20 など、特定のスタイルを制約するルールが存在する場合、そのファームは自身の戦略と適合しない。
  2. ドローダウンルールの「罠」: 多くのトレーダーが失敗する最大の要因は、最大ドローダウン(Max Drawdown)ではなく、「日次ドローダウン(Daily Drawdown)」である 19。この日次ドローダウンの計算方法(例:0:00 UTC時点の残高基準か、変動エクイティ基準か)を正確に理解しているか。
  3. ドローダウン計算の基準: ドローダウンの計算基準は「残高(Balance)ベース」か、「エクイティ(Equity)ベース(未決済の含み損益を含む)」か 19? エクイティベースのドローダウン(特に “Trailing Drawdown” と呼ばれる、最高エクイティから計算されるもの)は、残高ベースよりも格段に厳しく、トレーダーの自由度を著しく制限する。
  4. プラットフォームの信頼性: 取引プラットフォームは信頼できるか? 12 業界標準のMT4/5か、あるいは先物トレーダーに人気のNinjaTraderやTradovate 21、または新興のMatch-Trader 7 などを提供しているか。独自開発のプラットフォーム(Proprietary Platform)の場合、その安定性、機能性、そして何より「約定の公正性」に関する評判を徹底的に調査する必要がある。
  5. プラットフォーム依存リスク: ファームがMetaQuotes社(MT4/5)に過度に依存していないか。MetaQuotes社の方針転換一つで、ある日突然プラットフォームが利用不可になるリスクを考慮する 9。複数のプラットフォーム選択肢を提供しているファームは、この点でのリスク分散ができている。
  6. 執行コストの透明性: スプレッド、手数料(コミッション)、スワップポイントは明瞭かつ妥当な水準か 19? MFFのように、LP手数料と偽った隠れた手数料 3 が存在しないか。異常にスプレッドが広い、あるいは手数料が高い場合、それ自体がトレーダーの成功を妨げる要因となる。

D. 評判とオペレーションの健全性(5項目)

  1. 支払い実績(最重要): ファームの健全性を測る唯一最大の指標は、「実際に利益を出金できたか?(Can you actually get your profits?)」である 12。これは、他のすべての項目に優先する。
  2. コミュニティ・レビューの精査: Trustpilot, Reddit(特にr/Forexなど), YouTubeで、マーケティング(宣伝)ではない、実際のトレーダーの「生の声」を確認する 19。特に「支払い拒否(payout denied)」「理由なく失格にされた(disqualified for no reason)」といった内容のレビューが複数(単発ではなく、パターンとして)存在する場合、そのファームはMFFと同様の危険性を孕んでいる可能性が極めて高い。
  3. サポート体制の品質: カスタマーサポートは「本物の人間」が対応しているか? 12 対応は迅速か、そして質問に対して専門的かつ明確に回答しているか? 13 問題発生時に、AIチャットボットによる無意味な定型文しか返ってこないようなファームは信頼に値しない。
  4. 評価プロセスの妥当性: 評価(チャレンジ)の利益目標が高すぎる、または達成期間が短すぎるなど、非現実的な基準(”set up to fail”)を課していないか 12。過度に困難なチャレンジは、トレーダーに無謀なハイリスク・トレードを強いることになり、ファーム側がチャレンジ料収入を最大化するために意図的に設計したものである可能性を疑うべきである。
  5. マーケティングの論調: ファームのウェブサイトや広告が、「誰でも簡単に稼げる」「即金」「夢の実現」といった、過度に扇動的な(”bold promises”)言葉を多用していないか 12。健全なファームは、取引に伴うリスクを明記し、現実的な期待値を提示する。

表1:プロップファーム 危険な兆候 vs. 信頼の証(要約)

上記の20項目は、ファームを迅速に一次スクリーニングするための対比表として以下に要約できる。

評価軸危険な兆候 (Red Flags) – MFF型信頼の証 (Green Flags) – 理想型
1. ビジネスモデルチャレンジ料収入への過度な依存。成功者を妨害するインセンティブ 2利益分配(Profit Split)を重視。トレーダーの成功がファームの成功に直結 12
2. 取引環境デモ口座であることを隠蔽、またはライブ口座と誤認させる 2「ライブ口座」モデル 9、または「シミュレーション」であることを明確に開示 11
3. 利益相反ファームがカウンターパーティであることを隠蔽。執行操作(スリッページ等)の疑い 2カウンターパーティとなる可能性を明記。提携ブローカーが信頼できる規制下にある 13
4. 経営陣経営陣が匿名、または所在地が不明瞭。経営陣の顔と経歴が公開されている 17
5. 規約(T&Cs)規約が曖昧。ファームの裁量権が異常に大きく、トレーダーに不利 19規約が明確、公正、かつアクセスしやすい。ドローダウン計算方法が明記されている 13
6. 評価ルール利益目標が非現実的。短期間での達成を強いる(失敗させるための設計) 12利益目標と期間が合理的。トレーダーのスタイルに合わせた選択肢がある [19, 21]。
7. 支払い支払い拒否や遅延に関するレビューが散見される 19支払い実績が一貫しており、迅速である 12
8. マーケティング「簡単」「即金」「夢」といった扇動的な言葉(Bold Promises)を多用 12リスクを明記し、現実的な期待値を提示する。教育的コンテンツが豊富 [22]。

V. 結論:透明性こそが未来の資本である

A. MFF事件の本質:「信頼」の崩壊

My Forex Funds事件が我々トレーダーと金融業界全体に突き付けた本質的な問題は、規制の有無という表面的な議論以前の、ファームとトレーダー間における「透明性の欠如」と「信頼の崩壊」である 23

皮肉なことに、MFFを詐欺として訴追したCFTC自身もまた、その訴訟プロセスにおける「不正行為」 3 によって司法からの「信頼」を失墜させ、制裁を受けるという結果となった 4。この一連の出来事は、プロップトレーディング業界、ひいては金融エコシステム全体が、深刻な「信頼の危機」にあることを象徴している。

B. 「ブラックボックス」オペレーションの終焉

MFFが(CFTCの告発通り)行っていたとされるオペレーションは、まさに「ブラックボックス」そのものであった。トレーダーは、「なぜその価格で約定したのか」「なぜ不利なスリッページが頻発するのか」を外部から検証することができず、ファームによる意図的な操作 2 を常に疑いながら取引を続けなければならない。このような不透明な関係性は、持続不可能である。

この「ブラックボックス」問題は、MFFのような意図的な詐欺行為(手動あるいは単純なソフトウェアによる操作)2 だけでなく、より高度なFinTech領域、特にAI(人工知能)やML(機械学習)を駆使したアルゴリズム取引においても、異なる形で存在する 23

高度なAIモデルは、その複雑さゆえに、しばしば「なぜその判断を下したのか」が開発者自身にも完全には理解できない「意図せざるブラックボックス」となり得る 23。トレーダーやプロップファームの顧客から見れば、そのブラックボックスが「意図的な詐欺」によるものか、「意図せざるAIの複雑性」によるものかは問題ではない。結果として「理解できず、信頼できず、管理できない」システムであることに変わりはないからである 23

C. 未来への提言:説明責任と技術的透明性

MFF事件後の世界において、プロップファーム、ひいては金融FinTech業界全体がパートナーシップの基盤として再構築すべきは、単なる「規制遵守」の宣言を超えた、技術的に担保された「透明性」と「説明責任」である。

この課題に対する具体的な解答の一つが、説明可能AI (XAI – Explainable AI) と呼ばれる技術分野である 23。XAIは、AIモデルの判断根拠(例:「特定の取引執行判断において、どの市場指標が最も強く寄与したか」「なぜこのトレーダーのアカウントがリスク管理AIによってフラグ立てされたのか」)を、人間が理解できる形で可視化する技術群を指す 23

未来のプロップファームは、XAIを導入することにより、自社が用いるリスク管理システムや(仮にカウンターパーティであった場合の)執行システムが、公正であり、特定のトレーダーを意図的に不利に扱っていないことを、トレーダー自身や規制当局に対して客観的に証明(Prove)することが可能になる 23

MFF事件後の世界では、単に高度な取引AI(AI MQLの戦略用語でいうところの「矛」としてのGenAI)23 を保有しているだけでは、もはや顧客の信頼を得ることはできない。そのAIが「透明」であること(XAI)、そしてそのシステム基盤が「堅牢」であること(SRE – サイト信頼性エンジニアリング)23 という「盾」 23 を併せ持つことこそが、信頼できる資本パートナーとして選ばれるための絶対条件となる。

トレーダーは、もはやファームに「信頼」を一方的に預けるべきではない。ファームが提供する「透明性」を厳格に「検証」する時代に入ったのである。

引用文献

  1. My Forex Funds Lawsuit: Warning to the Proprietary Trading Sector …,  2025年11月 参照  https://www.jdsupra.com/legalnews/my-forex-funds-lawsuit-warning-to-the-4332455/
  2. Regulators shut My Forex Funds charging $300 million fraud – FX …,  2025年11月 参照  https://fxnewsgroup.com/forex-news/regulatory/regulators-shut-my-forex-funds-charging-300-million-fraud/
  3. CFTC v. My Forex Funds Case Dismissed | Compliance Lessons for …,  2025年11月 参照  https://www.desilvalawoffices.com/articles/blog/2025/may/cftc-case-dismissed-my-forex-funds-controversy-h/
  4. CFTC Faces Sanctions After Missteps in My Forex Funds Lawsuit,  2025年11月 参照  https://riddlecompliance.com/cftc-faces-sanctions-after-missteps-in-my-forex-funds-lawsuit/
  5. Case 3:23-cv-11808-ZNQ-TJB Document 134 Filed 11/14/23 Page 1 of 28 PageID – GovInfo,  2025年11月 参照  https://www.govinfo.gov/content/pkg/USCOURTS-njd-3_23-cv-11808/pdf/USCOURTS-njd-3_23-cv-11808-0.pdf
  6. Why Most Traders Fail Futures Prop Firm Challenges: Reasons and Solutions,  2025年11月 参照  https://holaprime.com/blogs/trading-tips/why-traders-fail-futures-prop-challenge/
  7. The challenge of Demo Account execution in Prop Trading – FX News Group,  2025年11月 参照  https://fxnewsgroup.com/forex-news/retail-forex/the-challenge-of-demo-account-execution-in-prop-trading/
  8. Challenges of Proprietary Trading Firms | Brokeree Solutions,  2025年11月 参照  https://brokeree.com/articles/challenges-of-proprietary-trading-firms/
  9. The Demo Prop Trading Account Model Is Set To Collapse- Says Axi …,  2025年11月 参照  https://www.leaprate.com/forex/the-demo-prop-trading-account-model-is-set-to-collapse-says-axi/
  10. MFF Shutdown! What’s Next And Why CTI Is Different? – City Traders Imperium,  2025年11月 参照  https://citytradersimperium.com/mff-shutdown-why-cti-is-different/
  11. Global Proprietary Trading (Prop Firm) Industry Report (Forex, Crypto, Stocks) – Alec Furrier,  2025年11月 参照  https://alecfurrier.medium.com/global-proprietary-trading-prop-firm-industry-report-forex-crypto-stocks-7c57ab87ad46
  12. How to Choose the Right Prop Firm in 2025 and 5 That Get It Right …,  2025年11月 参照  https://worldbusinessoutlook.com/how-to-choose-the-right-prop-firm-in-2025-and-5-that-get-it-right/
  13. Questions to Ask Before Investing in a Prop Firm – WeMasterTrade,  2025年11月 参照  https://wemastertrade.com/questions-to-ask-before-investing-in-a-prop-firm-prop/
  14. Regulation of Retail Prop Firms: What Traders Need to Know – LuxAlgo,  2025年11月 参照  https://www.luxalgo.com/blog/regulation-of-retail-prop-firms-what-traders-need-to-know/
  15. Regulation and Oversight in Prop Trading: Are Prop Firms Regulated? – پراپ فرم,  2025年11月 参照  https://propiy.com/blog/en/regulation-and-oversight-in-prop-trading-are-prop-firms-regulated/
  16. Transaction Due Diligence Checklist – Torres Trade Law,  2025年11月 参照  https://www.torrestradelaw.com/ckfinder/userfiles/files/Transaction%20Due%20Diligence%20Checklist.pdf
  17. The Essential Due Diligence Questions Checklist for Advisors Choosing a New Firm,  2025年11月 参照  https://cross-search.com/the-essential-due-diligence-checklist-for-advisors-choosing-a-new-firm/
  18. The Vendor Due Diligence Checklist: A 5-Step Guide – BitSight Technologies,  2025年11月 参照  https://www.bitsight.com/blog/five-step-vendor-due-dilligence-checklist
  19. How to Choose the Right Prop Trading Firm (Step-by-Step 2025 …,  2025年11月 参照  https://marketmates.com/learn/how-to-choose-the-right-prop-trading-firm-step-by-step-2025-guide/
  20. Common Difficulties at Prop Firms – WeMasterTrade,  2025年11月 参照  https://wemastertrade.com/common-difficulties-at-prop-firms/
  21. Top 5 Futures Prop Firms in 2025 Compared – LuxAlgo,  2025年11月 参照  https://www.luxalgo.com/blog/top-5-futures-prop-firms-in-2025-compared/
  22. AI MQL事業戦略書 (改訂版 v7.0 – 価値共創モデル).pdf

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